えす山の日記

自分用のゲームの感想日記とか

ターミナルの感想と考察

ーあらすじー

アメリカ、ニューヨークにやってきたナボルスキー。そんな彼の祖国は、彼が洋上にいる間に革命が起こり、なくなってしまう。一夜にして無国籍になり、空港から出られなくなる。

一方で、空港側の人間もこのような厄介な人物を抱えておきたくない。特に昇進を控えたディクソンは面倒を起こしたくないため、ナボルスキーには空港から出るなと言いつつも、空港から出るように仕向ける。しかし生来の性格がまじめで優しいナボルスキーはその言葉を信じ、決して空港から出ない。そしてそのまま空港で生活を始める。

空港での生活は奇妙なものであった。しかし日々過ごすうち、美しい女性アメリアと出会い恋に落ち、友人たちもでき、建設業の仕事も得る。

そんなある日ロシア籍の男が空港で立てこもり事件を起こす。その事件に通訳として呼ばれたナボルスキー。彼はその男の意図を汲み、噓をつき、その男を無罪のまま、その男の目的まで果たす。男を権力の名のもとに組み伏せた空港と、それを颯爽と現れ救ったナボルスキー。話に尾ひれがつき、ナボルスキーは空港の英雄となる。

一方で事件により昇進が閉ざされたディクソン。彼はナボルスキーを自分がいる限り永遠に空港からは出さないと告げる。

そんなディクソンからナボルスキーの現状を聞いたアメリアはうそをつかれていたと涙を流す。自分がニューヨークにやってきた真実を話すナボルスキー。

父が出会ったジャズバンド。父はジャズバンドに手紙を送り、40年かけて彼らのサインを缶に集めた。残すはあと1人。しかし父はそのまま亡くなってしまう。だからナボルスキーは父と最期にきっとあと一人のサインを手に入れて、缶に入れると約束した。

アメリアと心を通わせるナボルスキー。翌朝、起きてみるといつもの仲間たちがナボルスキーの前にいる。戦争が終わったという。

いつのまにかみんなの人気者になっていたナボルスキーは、空港で宴を開く。そこにやってくるアメリア。1日だけニューヨークに入れるビザをもってきたアメリアは、ナボルスキーに別れを告げる。そうアメリアはずっと思い続けていた不倫相手から連絡がきたのでそちらに戻ったのだった。

ビザにはあとひとつサインが足りなかった。それはディクソンのもの。ディクソンは帰国するように言う。もしニューヨークに入りたいのであれば、いままで貴様を助けてくれた友人たちは職を失い、路頭に迷うことになると言って。

その一言で帰国を決意するナボルスキー。そんな彼に友人たちはなぜ戦わないのかと言い、そのうちのグプタに関しては臆病者とまで罵る。警察官を刺し、アメリカへ逃げてきたグプタ。騒ぎを起こし、目をつけられると国に強制送還されてしまうといままでひっそりと暮らしてきた彼は、初めて空港内で激昂する。そんなグプタを見て真実を伝える空港職員。それを聞いたグプタは、ナボルスキーがのるはずの飛行機に文字通り立ちはばかる。たとえそれが強制送還と7年もの逮捕を意味したとしても。

グプタの姿を見て、たとえ不法入国でもニューヨークに入ることを決意したナボルスキー。そんな彼を空港の人たちみんなが応援する。そして最後に立ちはばかる空港職員たちは、ディクソンに決してニューヨークにやつを入れるなと命令される。

行く手が阻まれたかに思われたとき、職員たちはナボルスキーのために道をあける。そして彼はニューヨークへとタクシーを乗るのだった。

彼は最後のサインを手に入れてタクシーに乗り行き先を告げる。家に帰るんだと言って。

 

ー感想と考察ー

誠実で優しいナボルスキー。彼に感化されて周囲の人間。そんな彼らの心温まるストーリーでした。

はじめは孤独だったナボルスキー、そしてはじめは地位の高さから慕われていたディクソン。それが物語の終盤には大きく立場が逆転していました。ディクソンはそんなナボルスキーのことを心の奥では認めています。だって最後逃げられた後、追いもせず満足そうな表情を浮かべているのですから。

 

さてここで考えたいのは二点。

1.なぜ最後まで不法入国に抗っていたナボルスキーは最後の最後に不法入国を決断したのか。なぜ一度帰ってからもう一度ニューヨークに向かうという選択肢がなかったのか。

2.アメリアとナボルスキーをくっつけなかったのは何故か。そしてアメリアの持ってきたビザは無駄だったのか。何だったのか。

 

1についてはおそらくナボルスキーはもう一度来るつもりで帰ったのでしょう。しかし仲間たちに、あなたたちを守るために帰るなんてのは言えないのでそのまま帰ろうとしたのです。そんな時、グプタは身を呈してナボルスキーの道を切り開いてくれました。そんなグプタの犠牲を無駄にはできません。だから今までの自分の意思を曲げてまで不法入国したのでしょう。

まあまた来るからと言えばよかったと思うんですけど、ナボルスキーの国は革命が起こっていることからもわかるように、決して裕福ではありませんから、すぐに来れる保証はありません。というか来れるかもわかりません。それはお金の問題かもしれないし、また情勢が悪化するかもしれない。100%またニューヨークに戻れる保証なんてないのです。だから友人たちにも言わなかったのだと思います。

 

2については明確な答えはありませんが、私が考えるに、ナボルスキーが得た形あるものは、ミュージシャンのサインだけにしたかったのではないでしょうか。そしてそのサインは革命が起こっていなくても手に入れられたものです。長きにわたる空港生活。そんな中でナボルスキーが手に入れたものは友情と記憶と繋がりです。もしここでアメリアという最愛の人が手に入ってしまえば、他のものが薄れてしまわないでしょうか。本作で愛と友情、重要視されているのはその描かれた分量からしても明らか後者でしょう。というかグプタの抵抗からしてそうだと思います。だからこそそちらを際立たせるために結ばれない結末にしたのだと思います。

そしてもう一つ、結局無駄になってしまったアメリアのビザ。はっきり言ってしまえば物語に不要なものかもしれません。だってもしこれがなくても、グプタたちは同じ反応をしたでしょうし。ではなぜ物語に登場させたかですが、これは1での繋がりにあたると思います。仮にこれがなければナボルスキーはただアメリアに弄ばれただけですが、法に触れるかどうかギリギリのビザをわざわざナボルスキーに渡すことによって、一時ではあるがその想いが本物であったことと、アメリアとの繋がりが残ることを表せるのかもしれません。

 

ターミナル(空港)から始まり、ターミナルに向かって物語が終わる。一時はターミナル(終着点)と思われた空港でしたが、そこは決してターミナルでなく、また新たな出発地点、祖国への道、そしてナボルスキーのこれから始まる新たな人生(父との約束を果たした大きなターニングポイントになるという意味で)となるターミナル(空港)だったという物語でした。

 

以上