正直ちょっと不安.実の妹にはそんないい記憶がない.シンセミアくらいか.一応って言葉あったしギリかもしれないけれど.
ー幼少期ー
小さなころからずっと健次の後をついてきていた鈴夏.何度も何度も一緒に星を見た.望遠鏡を買ってもらってからは一人でも見れるようになり,嬉しくもあり悲しくもありそうだった鈴夏だった.健次も健次で結構気に入っており,望遠鏡が壊れてしまい,都合わなくてはいけないときは嬉しいくらいだった.もっというなら二人は二人だけの時間が好きだった.修理されて帰ってきた望遠鏡のネジを鈴夏が隠し,それに気づいた健次が黙っているくらいには.
しかしそんな幸せも長くは続かなかった.隠したネジを直そうとした拍子に,父から打たれ,そして静夏の顔を見ることができず,静夏はいつしか疎遠になり,無口になっていった.
なんかわからないけど,親父の優しいゲンコツだけで涙がでた.
ー7/6ー
あのことをきっかけに,引っ込み思案になってしまった鈴夏.そのことに責任を感じる.
突然の夕立に傘をさしだしたのは鈴夏だった.なんてことはない会話が続かない.
こりゃ後回しにしてよかった.元気な鈴夏を知ってる方がよさそう.
ー7/7ー
静夏は今も天文部に入り,天体観測を続けている.しかしそれを触れることもできない健次.今日は七夕.二人で天の川を見たこともあった.そんなことを思い出すと,自然と昔の話をすることができた.久しぶりの弾む会話.何気ないことなのにそれだけで嬉しかった.離れもしないかわりに,近づきもしない彦星と織姫はまるで健次と静夏のように思える.このままでいいはずがない.幼き頃の謝罪をする.一度も言えなかった言葉を,今は自然に言うことができた.
突如花火を持って合流してきた七海とひかり.こんな風に4人で遊ぶのは久しぶりな気がする.
ー7/8ー
父親のちょっとした嘘を責め,鈴夏に同意を求める.しかし鈴夏がそれに乗ってくるわけもなかった.
どうも天文部は1人しかいないらしい.それでもノートに残された先輩の想いを引き継ぐためにも,苦ではないという.
鈴夏に夕日の観察に誘われる.夕飯の準備をサボって星空の下でわけて食べる1つのカップ麺.伸びてしまっておいしくないはずなのに不思議といつもよりおいしく感じた.
ー7/9ー
今日も誘われ星を一緒に見ることに.
お弁当を作ってきたというので,昔一緒に星を見た奥の浜辺で食べることにした.
お兄ちゃんが一緒に星を見てくれると言ってくれて嬉しかった.でもそれは同情だってわかっている.甘える権利なんてないはずなのに,それなのに...
ー7/10ー
今日から林間.前言ったことをおぼえてくれていて,作って持ってきてくれたチキンカツ.
風に吹かれ倒れる望遠鏡を必死に止める.子供の時にさせてしまったあんな表情をさせたくはない.鈴夏のためになにができるだろうか.まずは天体観測を手伝うことだろうか.一緒にはなれない織姫と彦星,ずっと先の話だけれどいずれは一緒になれるスピカとアークトゥルス.鈴夏も健次もスピカとアークトゥルスのほうが好きだった.
ー7/11ー
楽しかった林間が終わる.また来年.もっと楽しくありますように.
壊した望遠鏡を組み立てる.いい加減踏ん切りをつけなくてはならない.
望遠鏡には1本の傷.それでも綺麗なのはきっと静夏が一人で整備をし続けていたから.そんな様子を見つけた静夏は悲しそうにそれは私がやることだからと聞かなかった.改めてついた嘘を謝る健次.わだかまりは消えつつあるなんてきっと勝手に思っていただけで,静夏の中にはシコリとなっていることが表情から分かった.
ー7/12ー
今日も奥の浜辺で天体観測.
ー7/13ー
いくつかのマイ道具をそろえに駅前へ.
そして夜は観測.昔二人で見た流星群が明々後日やってくる.少し不安そうな静夏と指切りをした.
ー7/14ー
自分にとって鈴夏はなんだろう.昼間鈴夏の手を握ってからある胸のもやもや.兄妹だけど,ずっと離れていた兄妹らしくない兄妹.
砂浜が固いと言っていたことを気にした鈴夏がしてくれた膝枕は柔らかくどきどきした.
二人は自然とキスしていた.
なんでこいつら抱き合ってキスしてんだ.
ー7/15ー
きっと鈴夏へのキスは昔から抱いていた一つの気持ちだったのだろう.あの一件で開いてしまった二人の距離.それを今まで埋めることができなかったのは近づきすぎて離れることが怖かったから.鈴夏が傘をさしだしてくれたというきっかけがなければ今こんなことにはなっていないはずだ.あのときの勇気を出した鈴夏に感謝する健次.
台風が近づいているようだった.このままだと明日の流星群は見れないかもしれない.そのことに鈴夏は異様に落ち込んだ.
ー7/16ー
台風は逸れなかった.
二人でこれまで観測した記録を整理する.新しく作ったノートには二人の記録と二人の思い出が詰まっているのだろう.
父親からの電話.台風で帰れないといっていたと鈴夏は言うが,どうも他にも何か言われたようだった.聞いてもとまどうばかりの鈴夏.だから健次はそれ以上聞かなかった.鈴夏に嘘をつかせたくないから.
子供のころのようにお兄ちゃんと星を見れるようになったことが嬉しくて,それを失いたくなくて.ようやく星を見る本当の理由にも気づいたのに.お兄ちゃんと星を見ることが何より好きだったのに.嘘をついた罰が当たったんだ...
ご飯ができたと呼びに行くも,家に静夏はいない.まさかと思い,健次は駆けだした.ポケットの二人の思い出がつまった観察ノートは雨でぐちょぐちょだった.しかしそんな後悔は後からでもできる.
いつもの浜辺に立ち尽くす静夏.お兄ちゃんとここで観察した気持ちを忘れたくなかったから.鈴夏は真相を話し始める.天文部が廃部になる.今日の職員会議でそう決まった.星を見るのに関係ないと思っていたのは事実だった.でもお兄ちゃんと星を見るようになって気づいた.星を見る以上に,お兄ちゃんと星を見るのがもっと楽しかった.だから星を見るのはやめようと思う.だってお兄ちゃんともう星を見れなくなってしまうから.これから星を見るたびにそんなことを思い出すのはあまりに辛いから.
それを聞いた健次は謝る.星を見るのは好きだし,鈴夏の役に立ちたいと思っていたし,子供のころの望遠鏡のことを考えていたのも事実.しかしそれ以上に鈴夏と星を見るのが楽しかったから.それが伝わっていると思っていたから.だからキスをしたんだ.鈴夏が好きだから.ありのまま好意を伝え合う二人だった.
お兄ちゃんが好き.なのに私はいつまで嘘をついているんだろう.廃部よりももっと先に伝えなくてはいけなかったこと.今日浜辺にいた理由だって...
遅い夕食を食べながら鈴夏は泣いていた.
もうわからんよ.私には.この二人には葛藤というものがないらしい.
ー7/17ー
あの岬に行く.もう一度はじめるために.
もう望遠鏡は返してしまったから健次は昔の望遠鏡を持ってきた.風に揺れる望遠鏡.あの時の記憶がフラッシュバックする.あの時と同じ.意味はないとわかっていても,手から血を流しながらレンズをかき集める.ごめんとしか言えなかった.
そんな健次を見て鈴夏は嘘を告白する.あの時ネジを抜いたのは自分だったことを.望遠鏡を見るたびに後悔でいっぱいだったけど,同時にお兄ちゃんとの記憶がよみがえってきたから.
結局は同じだった.子供のころの後悔を抱え続けていた自分と静夏.そして気づかぬまま静夏を苦しめ続けていた.嘘は最後まで黙っていれば嘘だけど,正直に言えば嘘にはならない.屁理屈にもならない言い訳.健次も嘘を告白する.隠した理由はいたずらなんかじゃなくて,鈴夏と一緒にいたかったから.
二人一緒に星空を眺めながら,来年こそ流星群を見る約束をする.そうやって約束を重ねていく.果たしていく.雨に濡れて青色がラムネ色になったノートに思い出を込めながら.
恋愛関係にならなかったらもっと素直に楽しめたなあ...それでもあまりに嘘にこだわりすぎる二人の気持ちがあんまりわからなかった.